2019年8月6日火曜日

高知システム開発からのPC-TalkerNeo発売発表を考える

先日PC-TalkerNeoの発売が発表され、各所で様々なコメントが行われている。 一方、あの文章が分かりにくいだとか、何やらみんなが騒いでいるけど議論の内容が分からないとかいう声もあり、それが原因で議論に参加できない者もいる。 また、間違った情報が錯綜している感もある。

そこで、箇条書きで発表の要点を整理するとともに、各所での議論に参加できるよう様々な点からこの発表を考察する。 当然、考察であるから筆者の立場が強く反映されてしまっている。 この点についてはよく留意して読んでいただきたい。

筆者の意見も記載はしているが、筆者がこの記事で求めるのは、「多くの人がこの議論に参加し、意見を表明すること」である。 TwitterなどのSNS上でも、MLに書き込むでも、高知システムに直接伝えるでも、友人に話をするでもいい。 この発表を視覚障害者全体の問題として共有し、ただ受け流すのではなく、賛成か、反対か、どのような発表だったら賛成できるのか、視覚障碍者とその支援者はこの発表を受けてどう行動していくのかなど、何かを考えるきっかけにしてほしいと願っている。

なお、2019年10月に消費税率が変更される予定であることにかんがみ、このページで料金について述べる際には特に断りのない限り消費税を含まない価格で起債する。

また、細かな疑問点については文末に番外編としてまとめている。 単純に情報のみを求める方はそちらから先にお読みいただきたい。

今回の発表の要点

  • PC-Talkerは、2019年9月販売分からは使用期間(○年)を区切って、年あたり・月あたり○円という形での販売となる。この形態で販売される製品を、PC-TalkerNeoという。
  • NetReaderも、PC-TalkerNeoのオプションという扱いになる。
  • OfficeWorksは、PC-TalkerNeoの機能の一部として統合される(追加料金不要)。
  • 基本的にはインストール時にはインターネット接続が必須で、最新版がインストールされるようになる
  • 企業・団体向けにネット接続なしのバージョンも用意する
  • 利用期限終了後は使用(起動)できなくなる
  • 購入できるのは最大6年分まで(電話確認済み)
  • 料金は、年額約8千円。個人が自費で買うなら割引で年額約6千円
  • ネットリーダーを使うなら、プラス年額3千円。個人が自費で買うならプラス2千円
  • PC-Talker7・8はこのまま各OSのMicrosoftサポート終了までサポートされる
  • PC-Talker10は2022年4月、NetReader2は2022年7月までサポートされる。
  • PC-Talker7・8・10とNetReader2は2019年8月末で販売終了となる →[追記:2020年9月末まで延長されました

不明点

 この文書を書いていて疑問に思った点を記しておく。  ここに挙げた項目は、近日中に電話して確認したいと思う。  ただし、他に電話する人がいればついでに確認してコメントをいただけるとありがたい。

 また、コメント欄で質問等があれば、ここに追記していく。

  • 2019/08/06に全て解消済み

重要な結論

 このページを最後までお読みになって計算をすればわかることではあるが、このページが長文であること、結論を後で振り返りたい者も多いと考えられることから、筆者が考えるこの発表を受けてのベストな対応を先に記しておく。

  1. PC-Talker10を既に利用中で、今後もGoogleChromeベースの新しいNetReaderが不要な人
    • わざわざPC-TalkerNeoにするメリットは皆無。そのまま現行バージョンを2022年4月のサポート終了以降、アップデートが欲しくなるまで使い続ければよい。
  2. PC-Talker7の利用者で、今後もGoogleChromeベースの新しいNetReaderが不要な人
    • PC-Talker7どころか、OSも含めて2021年1月にサポート終了となるので数か月以内にWindows10への乗り換えをすることが推奨される。
    • それを前提とするなら、自費を使ってでも、2019年8月中にPC-Talker10を購入しておくべき。
  3. PC-Talker8の利用者で、今後もGoogleChromeベースの新しいNetReaderが不要な人
    • 自分がいつまでWindows8のPCを利用するのかをよく考える必要がある。
    • 2020年中までにWindows10のPCに買い替えを予定するのであれば、2019年8月中にPC-Talker10を購入すべき。
    • PC-Talker10のサポートは2022年4月で終了するが、その後も使い続けることができる。
    • OSもPC-Talkerも、2022年4月時点のバージョンで止めたまま最低2年程度は利用可能である。それが一番安い。
    • そうでないなら、今は対応不要。お持ちの8を使い続ければよい。
  4. PC-Talker7・8の購入やバージョンアップを検討している人
    • 発売収量が迫っているので、2019年8月中に購入が必須。
  5. PC-Talker7・8と一緒にNetReaderを使い始めたいもしくはNetReaderを2にバージョンアップしたい人
    • 発売収量が迫っているので、2019年8月中に購入が必須。
  6. PC-Talker10利用者で、NetReaderを使い始めたい人
    • 現行のIEベースのNetReaderでもよいから安く済ませるか、Chromeエンジン搭載になったバージョンになるがPC-Talkerごと乗り換えて高い料金を支払うかの選択となる。
    • 前者を選ぶ場合、発売収量が迫っているので、2019年8月中に購入が必須。
    • 後者を選ぶ場合、新機能リリースまで待つべき。今急いでアップデートすることによる利点は全くない。
  7. どうしても新しいNetReaderを使いたい人
    • 料金は覚悟のうえで、Chromeエンジン対応の一報があり次第PC-TalkerNeoPlusに乗り換えることになる。
    • 必ずWindows10のPCが必要。
  8. PC-Talker10を新規で購入検討中の人
    • 2019年9月になってからPC-TalkerNeoを購入すべき。
    • 既に予約受付が始まっており、見積書の取得も可能。

何がそんなに問題なのか?

 今回の制度変更は「月額制になった」ことがよく注目されるが、重要なのはそこではない。真に重要なことは、「既存ユーザへの実質値上げ」や「インストール時のネット接続必須化」などである。  この章では、これら問題が具体的に何を引き起こすのかについて述べる。

  1. 既存ユーザへは実質値上げである

    • これまでは、PC-Talkerのアップデートといっても1バージョンアップなら8千~1万円程度の負担で会った。しかも、しばらくはアップデートをせずに使うという選択も可能であった。
    • バージョンアップが3年に一回程度だと考えれば、年額約3千円以下だった。
    • 今回から、既存・長期ユーザへの割引は一切ない。
    • そのため、既存ユーザから見れば、今回以降のアップデート費用は2~3倍になったと考えることができる。
  2. これまで利用できていたソフトが使えなくなる可能性

    • 日常生活用具給付をはじめとする公的給付には、限度額がある。
    • これまで、バージョンアップは比較的安価だった。そのため、数回に分けて補助を頂くことによって、毎回「過去ソフトのバージョンアップ+いくつかの新規購入」ができていた。この方法により、時間をかけて使えるソフトを少しずつ増やせてきた。
    • 今後は、既存ユーザへの割引がなくなる。
    • これまでに購入したソフトのサポートを受け続けるだけでも高額な費用となり、限度額が不足する事態が考えられる。
    • 例えば、よくある限度額10万円(税込)、年数6年の自治体の場合、MyNewsパックとPC-Talkerの2つさえも購入できない(消費税を考慮すると限度額オーバー)。
  3. netReaderの最新版が欲しいなら、PC-Talkerも含めて更新せねばならない

    • 9月から、Netreader単体での購入はできない。
    • NetReader2はサポートし続けるが、Chromeエンジンへの対応は行われない
    • このため、PC-Talkerの利用期間がどんなに残っていたとしても、NetReaderの最新機能が欲しければ残りのPC-Talkerのサポート期間を放棄して、新規と同額にてNeoPlusにアップデートしなければならない。
    • だとすると、7月の発表直前にPC-Talker10を注文しており、新しいNetReaderもいち早く試したいという人は、たった数か月に4万円を支払ってPC-Talker10を利用したということが起こりうる。(この件は電話にて確認済み。)
    • さらに、今回のアップデートではOfficeWorksの統合が行われる。上記の例でOfficeWorksまで一緒に飼っていたという例なら、なんと数か月で6万円なり。おそろしい。
  4. Windows7・8ユーザは、NetReaderを購入できなくなる

    • 今回、NetReaderはPC-TalkerNeoに統合される。NeoはWindows10のみの対応となる。
    • NetReader2は、今月末で販売終了する。
    • そうなると、Windows7・8のユーザは、OSごと乗換ない限りにおいてNetReaderが購入できなくなってしまう。
  5. サポート切れOSでの利用が不可能になる可能性

    • 事前に購入を済ませていれば、今でもWindows98・XP・Vistaなどに対応したPC-Talkerは利用可能である(もちろん、サポートは受けられない)。
    • しかし、今後はインターネット接続環境下でのインストールとなる。
    • これにより、今後例えばWindowsが11になったとか、PC-Talkerが一定バージョン以下のWindows10のサポートを終了したなどの場合に、旧バージョンのOSをもっていてもそれがサポート外であるとしてインストールできなくなってしまう可能性がある。(未確認)
    • 例えば、ブレイルセンス用のプログラムはXPでしか開発できないという噂があるなど、サポート終了製品の利用がやむを得ないケースは実際に存在する。
  6. サーバトラブルのリスク

    • インストールにネット接続が必須となると、万一そのサーバがメンテナンス等されるとPC-Talkerがインストールできなくなる可能性がある。ユーザは、どんな努力をしたとしても「PC利用はほぼ不可能」な状態に陥る。
  7. 高知システムの廃業・倒産リスク

    • 過去、幾つかのスクリーンリーダが開発終了している。
    • 万一高知システムが廃業・倒産などすると、事前にいくら大金を支払っていようとも、サーバが止まってしまいインストール作業が行えなくなる可能性がある。新たなスクリーンリーダの開発や乗換、操作方法の学習の間、PCが故障でもしたら目も当てられない。

今回の料金体系が不合理である理由

 今回の料金体系では、新規インストール時からいつまで使い続けても、一年あたりの価格は同じになると発表されている。これが不合理と考えられる理由について述べる。

  • これまで、新規4万、更新8千円~という料金体系であったが、これは以下のようなことを考えるととても合理的であった。
    • 高知システムは、売上本数に応じて音声エンジンの利用料などを外部に支払うはずである
    • 差額の一部は、めったに更新されないアクセサリソフトに対する対価と考えられる
    • 導入直後はサポート利用率が高いと考えられる
  • よって、今回の制度変更によって「ユーザが長期利用すればするほど、料金が膨れ上がる」料金体系となることは、とても不合理である。
  • この制度変更は「課金体系の変更」ではなく「説明もない不合理な値上げ」であるといわれても仕方のない。

JAWSとの比較

 同じスクリーンリーダとの比較でよくJAWSが持ち出される。今回の料金変更を経てもなおJAWSの方が圧倒的に高額であるのは確かだが、話はそう単純ではない。

  1. JAWSは「アップデート」に、PC-Talkerは「使うことそのもの」に対して追加費用を要求する
    • JAWSは、アップデートが不要であれば更新をせずに購入したバージョンを使い続けることができる。
    • 一方のPC-TalkerNeoは、期限が過ぎるとアップデートが提供されないのみならず、そもそも利用(起動)ができなくなる。

求められるのは「説明」か

 値上げにも、やり方というものがある。例えば、食品メーカが「原材料費高騰のため」、運送業者が「人件費が高いので」「従業員に還元するので」などというように発表される。これをきいて、消費者もある程度の納得をするのである。

 一方、今回の実質値上げを伴う年額料金への変更発表の末尾に書いてあるのは「ユーザー様のご負担が過大にならないように、考慮していきますのでご理解をお願いいたします。」という一文である。既存ユーザを実質3倍に値上げしておいて、どこが「負担が過大にならないように」なのだろうか。

 この値上げ分を使って開発スタッフを3倍にしますとか、ユーザ数の減少に伴い必要だとか、何らの妥当な理由の発表もなく、ましてこれが料金据え置きであるといわんばかりの発表をするから、ユーザは余計に怒りを感じるのではないだろうか。

NVDAがあるからそれでよいのか

 筆者は大学で情報工学を専攻し、PC操作は得意であるから、NVDAだけあればさほど困ることはない。

 一方、幾つかの理由により、少なくともあと数年はNVDAがあればPC-Talkerがなくても大丈夫とは言い切れない事情がある。

  1. NVDAの操作を指導できる人は多くない
    • これまでPC-Talkerのシェアが圧倒的だったこと、NVDAがきちんと使えるようになったのがここ数年の話であることなどから、NVDAの使用方法を教えられる指導者はとても少ない。
    • 現状では、盲学校やパソコン教室などにおいてNVDAで指導しているところもとても少ない。
    • ヘビーユーザ以外への普及には、まず指導者の育成が必要である。
  2. 無料であるが故の問題点
    • 日本語環境でNVDAを使用する場合、多くのユーザは追加の音声エンジンがあった方が操作しやすい。
    • しかし、「基本無料なのですが捜査効率アップのため音声エンジンの購入を」というと、「とりあえず使えるのでしょう?」という返答をされるケースがある。
    • このため、何も知らない相手には「視覚障碍者がPC利用するにはPC-Talkerという4万のソフトが必要です。」と言う方がよいという話がちらほらある。
  3. MyFile・MyEdit依存の問題
    • これまでこれらソフトウェアに慣れていたユーザにとって、スクリーンリーダの変更と共にこれらからの移行も同時に迫られる。
    • しかし、あまり有力ない項先がないのが現状である。
  4. 理療科用辞書の整備の問題
    • PC-Talker向けには、理療科用辞書が無償配布されている。
    • 鍼灸科の学生や三療で働く者は多いので、これをNVDAアドオンとして委嘱する必要がありそう。

福祉の観点から

  • よく、「これだけの機能があるのだから」とか「Windows10への対応コストが増えたのだから」といった理由で「もっと支払うべきだ」「値上げもやむなし」という意見がある。
  • これらの理屈には、ある程度の正当性もあるし、筆者も間違っているとは思わない。
  • 一方で、福祉制度(個人購入にあっては主に日常生活用具給付、法人にあっては障碍者雇用の助成金など)には上限額がある。
  • これら福祉制度は、例えば生活保護適用者は自己負担が0円であるなど、必要な人は誰もがソフトを利用できることを保証する意味合いもある。
  • そのため、ソフトが値上げされても限度額が増えないのであれば、ソフトを使用できない者が出てしまうという問題は、とても重要である。
  • 近年、PCでできることやPCの必要性は確実に増しているにもかかわらず、上限額が10年以上前から10万円に据え置かれている自治体がほとんどである。
  • ユーザのことを考えてPC-Talkerを値上げするのであれば、せめて役所との交渉・議会への陳情などをする時間的猶予を持った発表をすべきではないだろうか。
  • 企業には、「社会的責任」がある。高知システムは、視覚障害者のPC利用環境を提供する会社として、多くの視覚障碍者が最低限のソフトを安価に利用できるようにする責任があるのではないだろうか。

筆者の考え

 最後に、一応私が妥当と思う料金体系について記しておく。

  • 上述の通り、バージョンアップの方が新規より安いという従前の制度は妥当である。
  • 以下のような理由から、年額での料金徴収は理解できなくもない。
    • Windowsがいつまでも10である
    • Microsoftによる大規模な行進が高頻度で配信されて対応が必要である
    • 一通りの機能がそろっている現在、不具合修正ではなく時期バージョンの目玉としてアピールできる機能を作るのが大変になってきていると見受けられる
    • ユーザとしても、無理やり作った目玉機能より日ごろの細かなバージョンアップの方がありがたい
  • よって、次のような制度を提案する。Windowsのアップデートが頻繁に行われている今、ある程度の周期でユーザはアップデートするであろう。
    • 新規パッケージ購入者には、5年で○万円という新規価格で販売する
    • アップデート延長料金を年額○千円とする
    • 期限経過後のアップデートには、元の利用期限からその時までの経過期間による年額料金に加算金をつけて請求する(新規購入価格を上限)

番外編 よくある質問

  • この項では、MLやTwitterで見かけたもの、私が疑問に思ったものなどを、私や私の知り合いが直接開発元に電話で聞いた結果を掲載する。

  • OfficeWorksの販売は続けるのか?

    • PC-Talker7・8のサポート終了まで購入は可能。
  • VoiceWorksも統合されたのか?

    • そうではない
    • VoiceWorksは引き続き販売・サポートされる
    • Neoに搭載のエンジンの種類はこれまでと同じで、増えるわけではない。音質は向上する。
    • Neoにアップデートすれば、VoiceWorksに搭載の音声エンジンも高品質化される(発売当初から対応予定)
  • BrailleWorksはどうなるの?

    • 統合されない。
    • これまで通り販売が継続される。
  • PC-TalkerNeoの期限経過後はどうなるの?

    • 10分間の時間制限付のセーフモードを3回まで利用可能。
    • 期限到来の150日前から、10日に一度ダイアログでお知らせしてくれる。
  • PC-Talker10のサポートも続くが、Neoとの差は?

    • 上述の音声エンジンの音質向上とOfficeWorksの統合以外に大きな差はない。
    • 今後、2022年のPC-Talkerサポート終了まで大きな差ができる見込みもない。
    • このため、わざわざ新機能を求めてNeoにする利点は皆無である。
  • HPにある「ユーザー様のご負担が過大にならないように、考慮していきますのでご理解をお願いいたします。」の意味は?

    • PC-Talkerで負担をかけるので、今後は負担が過大にならないようにしていきたいという意味。
    • でも、このほど発表されたMyBook5の価格表示を見てもそのような気持ちがあるとは到底思えない(自費割引があってもなお、これまでより負担増)というのが筆者の意見。

ここまで長文となったが、この発表にはこれだけの長文を書くだけのインパクトがあった。 先に記した通り、アップデートをすべき人はとにかく急いでほしい。周囲に該当ユーザがいれば、今すぐにでも知らせてあげてほしい。

そして、今後視覚障害者のPC利用環境の保証と向上のため、どうしてゆくべきか、一人でも多くの人が考えてほしい。

以上、ここまで読んでいただいたことに感謝する。何かあれば、気軽にコメントを寄せてほしい。

2 件のコメント:

  1. > PC-Talker10は2021年4月、NetReader2は2021年7月までサポートされる。

    > そのまま現行バージョンを2022年4月のサポート終了以降、アップデートが欲しくなるまで使い続ければよい。

    古い文章ですが、たまたま読みました。
    私の理解力不足でしたら、本当に申し訳ありません。
    PC-Talkerについて、2通りのサポート終了年月が書かれています。どちらかが間違いではありませんか?
    2022年が正解の気がします。

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    1. コメントありがとうございます。
      修正しました。

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